比較
新事業進出補助金 vs 事業承継・引継ぎ補助金の使い分け
公開: 2026年3月15日
更新: 2026年3月15日
読了目安: 3分
事業承継と新事業展開を同時に実現する補助金活用法
後継者が先代から事業を引き継いだ後、新しい分野への進出を検討するケースが増えています。このとき活用できる補助金として「新事業進出補助金」と「事業承継・引継ぎ補助金」の2つがありますが、どちらを使うべきか、あるいは両方を組み合わせるべきかは、事業承継のフェーズと投資内容によって異なります。
本記事では、M&Aや親族間承継を契機とした新事業展開のケース別に、最適な補助金の使い分けを解説します。
この記事が役立つケース
- 先代から事業を引き継いだ後継者が新事業を検討している
- M&A(買収)で取得した事業をベースに新分野に進出したい
- 事業承継をきっかけに業態転換を考えている
- 事業承継・引継ぎ補助金と新事業進出補助金のどちらを使うか迷っている
制度比較表:新事業進出補助金 vs 事業承継・引継ぎ補助金
両制度の基本情報を一覧で比較します。
| 比較項目 | 新事業進出補助金 | 事業承継・引継ぎ補助金 |
| 主な目的 | 新市場進出・事業転換 | 事業承継・M&Aを契機とした経営革新 |
| 対象者 | 中小企業・中堅企業 | 事業承継(親族内・従業員承継・M&A)を行う中小企業 |
| 補助上限額 | 最大9,000万円 | 最大800万円(経営革新枠)/ 600万円(専門家活用枠) |
| 補助下限額 | 750万円 | なし |
| 補助率 | 1/2(小規模は2/3) | 1/2〜2/3 |
| 対象経費 | 機械装置・建物・システム・広告宣伝等9区分 | 設備投資・販路開拓・M&A仲介費用・デューデリジェンス費用等 |
| 事業承継の要件 | 不要(新事業進出が要件) | 必須(事業承継の実施が前提) |
| 審査方法 | 書面+口頭審査 | 書面審査 |
| M&A関連費用 | 対象外 | 対象(仲介手数料・DD費用等) |
| 廃業・清算費用 | 対象外 | 対象(廃業・再チャレンジ枠) |
事業承継・引継ぎ補助金の3つの枠
事業承継・引継ぎ補助金には3つの申請枠があり、事業承継のフェーズに応じて使い分けます。
| 枠名 | 補助上限額 | 補助率 | 対象 |
| 経営革新枠 | 800万円 | 1/2(一部2/3) | 事業承継後の新事業展開・販路開拓・設備投資 |
| 専門家活用枠 | 600万円 | 1/2〜2/3 | M&Aの仲介手数料・デューデリジェンス・PMI費用 |
| 廃業・再チャレンジ枠 | 150万円 | 1/2〜2/3 | 事業承継に伴う廃業・清算費用 |
経営革新枠の活用
事業承継後の新事業展開には「経営革新枠」が使えます。補助上限800万円で設備投資や販路開拓を支援します。ただし、投資規模が大きい場合は新事業進出補助金の方が補助額で有利です。
ケース別の最適な補助金選択
事業承継の形態と新事業展開の規模に応じた最適な補助金選択を、ケース別に解説します。
ケース1:親族間承継後の新事業展開
後継者が親族から事業を引き継ぎ、新たな分野への進出を目指すケースです。
| 状況 | 推奨補助金 | 理由 |
| 小規模な設備投資(〜1,200万円)で新サービスを追加 | 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠) | 補助上限800万円で対応可能。書面審査のみで手続きが簡易 |
| 大規模な設備投資(1,500万円以上)で全く新しい分野に進出 | 新事業進出補助金 | 補助上限9,000万円で大規模投資に対応 |
| 承継直後の事業安定化+小規模な新展開 | 事業承継・引継ぎ補助金 | 承継に伴う課題(人材・設備・販路)への対応を含む |
| 承継後数年が経過し、本格的な新事業を計画 | 新事業進出補助金 | 事業承継の時期が古い場合は承継補助金の要件を満たさない可能性 |
ケース2:M&A(買収)を契機とした新事業展開
他社の事業を買収し、買収した事業をベースに新分野に進出するケースです。
| フェーズ | 推奨補助金 | 対象経費 |
| M&Aの実行(仲介・DD費用) | 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠) | M&A仲介手数料、デューデリジェンス費用 |
| 買収後の事業統合(PMI) | 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠) | PMIコンサルティング費用、システム統合費 |
| 買収事業をベースにした新事業立ち上げ | 新事業進出補助金 | 新事業用の設備・システム・広告宣伝費 |
M&Aと新事業を段階的に
M&Aの実行段階では事業承継・引継ぎ補助金の専門家活用枠を活用し、買収後の新事業展開段階で新事業進出補助金を活用する「段階的活用」が効果的です。時期をずらすことで、異なるフェーズの経費をそれぞれの補助金でカバーできます。
ケース3:従業員承継(MBO)後の新事業展開
従業員が経営を引き継ぐMBO(マネジメント・バイアウト)を行った後、新分野に進出するケースです。
| 状況 | 推奨補助金 | 理由 |
| MBO直後の経営基盤強化+小規模な新展開 | 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠) | 承継に伴う経営課題の解決と新展開を同時に支援 |
| MBO後2〜3年で新事業の本格展開 | 新事業進出補助金 | 投資規模が大きく、新市場進出の要件を満たす場合 |
| MBOの資金調達(株式買取費用等) | 事業承継・引継ぎ補助金ではなく融資制度を活用 | 補助金は株式取得費用には使えない。日本政策金融公庫等を検討 |
事業承継補助金と新事業進出補助金の併用戦略
2つの補助金を異なるフェーズ・異なる経費で活用する「併用戦略」は、事業承継と新事業展開を効率的に進める有効な手法です。
| フェーズ | 活用する補助金 | 対象経費 | 補助額 |
| Phase 1: 事業承継の実行 | 事業承継・引継ぎ補助金 | M&A仲介、DD、PMI費用 | 最大600万円 |
| Phase 2: 承継後の経営基盤強化 | 事業承継・引継ぎ補助金 | 既存事業の設備更新、販路拡大 | 最大800万円 |
| Phase 3: 新事業の本格展開 | 新事業進出補助金 | 新事業用の設備・システム・広告 | 最大9,000万円 |
併用時の注意点
- Phase 1とPhase 2で事業承継・引継ぎ補助金を2回受給することはできません(同一補助金の重複受給禁止)
- Phase 2とPhase 3の経費が重複しないよう、明確に区分する必要があります
- 各フェーズの実施時期は重ならないようスケジュールを設計しましょう
判断フローチャート:事業承継×新事業の最適な補助金選択
以下のフローで、自社の状況に最適な補助金を判断してください。
| 質問 | はい | いいえ |
| Q1. 事業承継(親族・従業員・M&A)をこれから実施または直近で実施しましたか? | → Q2へ | → 新事業進出補助金 |
| Q2. M&Aの仲介手数料やDD費用の補助が必要ですか? | → 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠) | → Q3へ |
| Q3. 新事業への投資規模は1,500万円以上ですか? | → Q4へ | → 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠) |
| Q4. 新事業は既存事業と異なる市場・産業分類に該当しますか? | → 新事業進出補助金 | → 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠)or ものづくり補助金 |
事業承継×新事業展開で採択率を高める5つのポイント
事業承継を契機とした新事業展開は、補助金の審査において高く評価されるテーマです。以下の5つのポイントを押さえることで、採択率を高められます。
| ポイント | 内容 | 対応する補助金 |
| 1. 承継と新事業の関連性を明示する | 先代の事業基盤をどう活かして新事業に展開するかのストーリー | 両方 |
| 2. 後継者としてのビジョンを示す | 後継者ならではの新しい視点・戦略を事業計画に反映 | 両方 |
| 3. 既存顧客・取引先への影響を説明する | 事業承継と新事業展開が既存事業にマイナスにならないことの説明 | 事業承継・引継ぎ補助金 |
| 4. 市場の成長性を客観データで示す | 進出先市場の規模・成長率・競合状況をデータで裏付ける | 新事業進出補助金 |
| 5. 段階的な実行計画を提示する | 承継→安定化→新事業展開の段階的なマイルストーンを設定 | 両方 |
まとめ:事業承継のフェーズに合わせた補助金活用を
事業承継と新事業展開における補助金選択の要点を整理します。
| フェーズ | 最適な補助金 | 補助上限額 |
| M&A実行・専門家費用 | 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用枠) | 600万円 |
| 承継後の経営革新・小規模投資 | 事業承継・引継ぎ補助金(経営革新枠) | 800万円 |
| 大規模な新事業展開 | 新事業進出補助金 | 9,000万円 |
| 廃業・清算 | 事業承継・引継ぎ補助金(廃業・再チャレンジ枠) | 150万円 |
事業承継は中小企業にとって「第二創業」のチャンスです。フェーズに合った補助金を活用し、承継を成功させながら新事業展開を実現しましょう。