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印刷会社がEC支援事業に転換した新事業進出補助金の活用事例

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印刷会社のEC支援事業への転換|新事業進出補助金の活用事例

ペーパーレス化の加速により、印刷業界は構造的な市場縮小に直面しています。日本印刷産業連合会のデータによると、国内印刷市場は2010年の5.8兆円から2024年には4.2兆円にまで縮小しました。

こうした環境下で、印刷会社が持つ「デザイン力」「色彩管理ノウハウ」「紙媒体の制作力」をEC(電子商取引)支援事業に転用し、新事業進出補助金(旧事業再構築補助金)を活用して業態転換に成功した事例を紹介します。

項目内容
業態転換商業印刷(チラシ・パンフレット等)→ EC構築・運用支援サービス
活用した既存スキルグラフィックデザイン、DTP、色彩管理、顧客の販促支援ノウハウ
投資総額4,200万円
補助金額2,100万円(補助率1/2)

なぜ印刷会社がEC支援を?

印刷会社の強みは「クライアントの販売を支援してきた経験」です。チラシやパンフレットの制作を通じて、クライアントの商品特性、ターゲット顧客、訴求ポイントを深く理解しています。この知見を「紙」から「Web」に載せ替えるだけで、EC支援サービスが成立します。

事例企業の概要|創業40年の印刷会社が直面した転換期

名古屋市の商業印刷会社I社(従業員20名、年商2.4億円)は、創業40年の老舗印刷会社です。地元の中小企業を中心に、チラシ、カタログ、パンフレット、名刺の印刷を手がけてきました。

印刷需要の減少と経営危機

年度売上印刷件数平均単価営業利益率
2020年3.0億円4,200件7.1万円6%
2022年2.6億円3,500件7.4万円3%
2024年2.4億円3,000件8.0万円1%

印刷件数が4年で29%減少し、高単価案件で補っても売上は20%減。営業利益率は1%にまで低下し、1件の大型案件の失注が赤字に直結する状況でした。

特に深刻だったのは、I社の主要顧客である地元中小企業が、販促チャネルをチラシからSNS広告やWeb広告にシフトしていたことです。「チラシの代わりにInstagram広告を出したい」という相談が増える一方、I社にはデジタル広告の対応力がありませんでした。

EC支援事業への転換アイデア

転換のきっかけは、I社の既存顧客である和菓子メーカーから「ECサイトを作りたいが、商品写真が上手く撮れない」と相談されたことでした。

I社にはカタログ撮影で培った商品撮影のスキル、DTPで鍛えたレイアウト感覚、色校正で磨いた色彩管理のノウハウがありました。これらはすべてECサイトの制作に直結するスキルです。

  • 商品撮影 → EC用商品写真の撮影・レタッチ
  • DTPデザイン → Webデザイン・バナー制作
  • カタログ構成 → ECサイトのUI/UX設計
  • 印刷の色管理 → モニターの色管理、商品画像の色再現
  • 顧客の販促支援経験 → ECの販売戦略コンサルティング

「デザインの載せ替え」という発想

I社の社長は「紙に載せていたデザインをWebに載せ替えるだけだ」と語ります。実際には新たに習得すべき技術(HTML/CSS、ECプラットフォームの操作、SEO等)はありますが、デザインの基盤力がある分、習得速度は圧倒的に速いのです。

投資計画と補助金の活用内訳

I社は新事業進出補助金で以下の投資を行いました。

経費区分内容金額
建物費撮影スタジオ改修(自然光スタジオ、白背景ブース、ライティング設備)1,200万円
機械装置費ECサイト制作用ワークステーション10台、カラーマネジメントモニター800万円
機械装置費動画制作設備(4Kカメラ、編集ソフト、照明)500万円
システム構築費EC支援プラットフォーム(顧客管理、制作進行管理、効果測定)600万円
研修費Webデザイン研修、EC運用研修、SEO研修(全スタッフ対象)500万円
広告宣伝費自社サイト、事例ポートフォリオ、セミナー開催400万円
外注費EC支援のノウハウ導入コンサルティング200万円
投資総額4,200万円
補助金額(補助率1/2)2,100万円

人材育成投資が成功の鍵

I社が特徴的なのは、投資総額の12%(500万円)を研修費に充てたことです。既存の印刷スタッフをWebスキルに「リスキリング」するための投資であり、これにより新規採用コストを抑えながら即戦力のEC支援チームを構築しました。新事業進出補助金では研修費が補助対象に含まれるため、人材育成にしっかり投資できます。

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EC支援サービスの設計|印刷会社ならではの差別化

I社が設計したEC支援サービスは、大手EC支援会社とは異なる「印刷会社ならでは」の差別化ポイントを持っています。

サービスラインナップと料金体系

サービス内容料金
ECサイト構築Shopifyベースのサイト構築、デザイン、商品登録初期80〜200万円
商品撮影スタジオ撮影、白背景/使用シーン、動画撮影1商品5,000〜15,000円
EC運用代行商品更新、バナー制作、メルマガ配信、広告運用月額15〜50万円
パッケージデザイン商品パッケージ、配送箱、同梱物のデザイン・印刷1案件20〜80万円
EC戦略コンサル売上分析、改善提案、販促カレンダー策定月額10〜30万円

印刷会社だからできる3つの差別化

差別化要因内容競合との比較
①商品撮影力カタログ撮影で培った商品の魅力を引き出す撮影技術IT系EC支援会社は撮影を外注するケースが多い
②パッケージ連携EC販売だけでなく、パッケージデザイン・印刷もワンストップD2Cブランドには特に価値が高い
③色の再現性カラーマネジメントの知識で、実物に忠実な商品画像を提供色のクレーム(実物と違う)を大幅に削減

「見た目と違う」クレームを90%削減

EC購入者の不満で最も多いのが「商品の色や質感が画像と違った」というクレームです。I社はカラーマネジメントの専門知識を活かし、モニター表示と実物の色差をΔE2以下に管理。EC支援先のクライアントでは「見た目が違う」クレームが導入前比で90%削減しました。これは印刷会社の色管理技術がデジタルでも通用することの証明です。

スタッフのリスキリング|印刷技術者からEC支援人材へ

I社は既存の印刷スタッフ20名のうち12名をEC支援チームに段階的にシフトさせました。リスキリング計画の全容を紹介します。

研修フェーズ期間内容対象者数
基礎研修1ヶ月ECの基礎知識、Shopifyの操作、Web用画像制作全20名
専門研修A(Web制作)3ヶ月HTML/CSS、Shopifyテーマカスタマイズ、LP制作6名
専門研修B(撮影・動画)2ヶ月EC用商品撮影、動画撮影・編集、レタッチ4名
専門研修C(運用・マーケ)3ヶ月EC運用、SNS運用、Google広告、SEO4名
OJT6ヶ月実案件でのOJT(最初の5案件は外部コンサル同席)12名

印刷スタッフのWebスキル習得が速い理由

印刷のDTPオペレーターはAdobe Illustrator、Photoshopを日常的に使っています。これらのスキルはWebデザインにもそのまま転用でき、HTMLやCSSの習得も「レイアウトの概念が身についている」分、非デザイナーよりも圧倒的に速いです。I社では3ヶ月の研修で、全員がShopifyサイトの基本的な構築・修正ができるレベルに達しました。

事業転換後の業績推移と成果

I社のEC支援事業の業績推移を紹介します。

指標転換前1年目2年目3年目
印刷事業売上2.4億円2.0億円1.7億円1.5億円
EC支援事業売上0円4,200万円9,800万円1.6億円
全社売上2.4億円2.42億円2.68億円3.1億円
全社営業利益率1%8%14%18%
EC支援クライアント数0社18社42社65社
月額契約(運用代行)数0社8社22社38社

3年目にはEC支援事業の売上が印刷事業を上回り、名実ともに「EC支援会社」に転換しました。営業利益率は1%から18%に大幅改善。印刷事業は規模縮小しましたが、既存のリピート顧客への印刷サービスは継続しています。

クロスセル効果: EC+パッケージ印刷

I社の最大の強みが発揮されたのは、EC構築クライアントに対するパッケージデザイン・印刷のクロスセルです。EC支援クライアント65社のうち45社(69%)がパッケージデザイン・印刷も発注しており、印刷事業の売上減少を一部相殺しています。「EC+パッケージ」のワンストップ提供は、D2Cブランドにとって非常に魅力的な提案です。

顧客獲得戦略|既存顧客からの転換と新規開拓

I社の顧客獲得は、既存の印刷顧客からの転換と新規開拓の2軸で進めました。

チャネル施策獲得社数(3年間累計)獲得コスト
既存顧客への提案印刷顧客300社へのEC支援サービス案内25社ほぼゼロ(営業コストのみ)
セミナー開催「中小企業のためのEC入門」月1回開催15社1社あたり約5万円
Webマーケティング事例記事SEO、リスティング広告12社1社あたり約8万円
紹介既存クライアントからの紹介13社紹介料なし

既存顧客が最大の資産

I社の顧客獲得で最もコスト効率が高かったのは、既存の印刷顧客への提案です。「今までチラシを作っていた会社がECも支援してくれる」という信頼関係のもと、スムーズな受注につながりました。新事業の初期は「既存顧客の課題を新事業で解決する」ことから始めるのが最も確実です。

印刷会社のEC支援転換から学ぶ教訓

I社の事例から得られる、印刷会社がEC支援事業に転換する際の教訓を整理します。

教訓内容
1. 完全転換ではなく段階的シフト印刷事業をいきなりゼロにするのではなく、並行して新事業を育てる。印刷顧客が新事業の最初の顧客になる
2. 既存スキルの棚卸しが最優先「印刷のスキルで何ができるか」を徹底的に洗い出す。デザイン、撮影、色管理はすべてEC支援に転用可能
3. リスキリングへの投資を惜しまないスタッフの育成は時間がかかるが、外注よりも長期的にはコスト効率が高い。補助金で研修費を賄える
4. 差別化ポイントを明確にする「IT企業のEC支援」との違いを明確にする。撮影力、パッケージ連携、色管理が差別化の武器
5. 月額モデルを早期に構築するEC構築のスポット案件だけでなく、運用代行の月額契約を積み上げてストック型収益を確保する

避けるべき失敗: 「何でもやります」の罠

EC支援事業に参入すると、「SEO」「SNS運用」「広告運用」「CRM」など、次々とサービス領域を広げたくなります。しかし、I社が成功した理由は「商品の見せ方」に特化したことです。撮影・デザイン・パッケージという「ビジュアル面」に絞り、広告運用やSEOは外部パートナーと連携することで、品質を維持しながらサービス範囲を拡大しました。

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よくある質問(FAQ)

はい、対象になります。印刷業(製造業)からEC支援サービス業(情報サービス業)への転換は、産業分類が異なるため「新規性」の要件を満たしやすいです。既存の印刷事業との差別化を明確にし、新たな市場・顧客を開拓する計画を示してください。

パソコン(ワークステーション)は「機械装置費」として補助対象になりますが、汎用パソコンは対象外となる場合があります。EC制作に特化した高性能ワークステーションやカラーマネジメントモニターなど、事業に直結する設備であることを明確にしてください。ソフトウェアのライセンス費は補助事業期間分が対象です。

外部研修機関への受講料、外部講師への謝金、資格取得のための受験料などが補助対象です。ただし、自社内での研修時の人件費(研修中の給与)は対象外です。I社のように計画的なリスキリングプログラムを策定し、研修の内容・期間・対象者・到達目標を明確にしてください。

いいえ、完全にやめる必要はありません。新事業進出補助金は「新たな事業への進出」を支援するものであり、既存事業の廃止は求められません。むしろI社のように、既存の印刷事業の顧客基盤を新事業に活用する戦略が有効です。

可能です。むしろ小規模な印刷会社のほうが意思決定が速く、転換がスムーズな場合もあります。10名以下であれば、全員をEC支援にシフトさせることも現実的です。投資規模も1,500万〜3,000万円程度に抑えつつ、補助金を活用して転換を進められます。

はい、Shopify以外のプラットフォーム(BASE、STORES、EC-CUBE、MakeShop等)を使ったサービスでも補助対象です。重要なのはプラットフォームの種類ではなく、「EC支援サービスとしてのビジネスモデル」が明確であることです。複数プラットフォームに対応できると、クライアントのニーズに幅広く応えられます。

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