採択事例
町工場のDX新事業|IoTサービス化で新事業進出補助金を活用した事例
公開: 2026年3月15日
更新: 2026年3月15日
読了目安: 3分
町工場がIoTサービス事業に転換|新事業進出補助金の活用事例
受託加工を主力とする町工場が、IoT(Internet of Things)を活用した監視サービスやSaaSプラットフォームの提供事業に転換するケースが、新事業進出補助金(旧事業再構築補助金)の採択事例として増えています。
「モノを作る」から「モノ+サービスを提供する」へ。製造業が持つ現場知見と技術力を、デジタルサービスとして提供することで、サブスクリプション型の安定収益を実現した町工場の事例を紹介します。
| 項目 | 内容 |
| 業態転換 | 受託加工(BtoB製造業)→ IoTサービス提供(BtoBサービス業) |
| 収益モデルの変化 | 受注単価×数量(フロー型)→ 月額利用料(ストック型) |
| 投資総額 | 4,800万円 |
| 補助金額 | 2,400万円(補助率1/2) |
なぜ町工場がIoTサービスを?
町工場は自社の製造設備を長年運用してきた「現場のプロ」です。設備の異常検知、稼働率管理、予防保全といった課題を誰よりも深く理解しています。この「現場知」をIoTで可視化・データ化し、他の製造業にサービスとして提供するのが、町工場発IoTサービスの本質です。
事例企業の概要と課題|受託加工の限界
埼玉県の金属プレス加工会社G社(従業員22名、年商2.8億円)は、自動車メーカーTier2として30年以上にわたり金属プレス部品を供給してきました。しかし、近年の経営環境は急速に厳しさを増していました。
G社が直面していた3つの課題
| 課題 | 具体的な状況 | 数値データ |
| ①受注量の減少 | EV化に伴うエンジン部品の発注減少 | 年間受注額: 2.5億円→1.9億円(3年で24%減) |
| ②価格競争の激化 | 海外メーカーとの価格競争、値下げ要求 | 平均単価: 3年で15%下落 |
| ③人材不足 | 若手採用が困難、技能伝承が停滞 | 平均年齢52歳、5年以内に5名が定年退職予定 |
G社の社長は「このままでは10年後に会社がなくなる」という危機感を持ち、自社の強みを活かした新事業の可能性を模索し始めました。
IoTサービスのアイデアが生まれたきっかけ
転機は、G社が自社工場の設備管理のために独自開発したIoT監視システムでした。古い機械にセンサーを取り付けて振動・温度・電流値をリアルタイム監視する仕組みを、社内のエンジニア1名が3年かけて開発しました。
このシステムの導入により、G社では以下の成果が出ていました。
| 指標 | 導入前 | 導入後 | 改善率 |
| 設備故障による停止時間 | 月平均12時間 | 月平均2時間 | 83%削減 |
| 設備稼働率 | 72% | 91% | 19ポイント向上 |
| 保全コスト | 年間480万円 | 年間280万円 | 42%削減 |
ある日、取引先の工場長がG社を訪問した際にこのシステムを見て「うちにも導入できないか?」と問い合わせたことが、サービス事業化のきっかけになりました。
自社の「困りごと解決」が事業の種になった
G社のIoTシステムは、最初から「売る」ために作ったものではありません。自社工場の課題解決のために作ったシステムが、同じ課題を持つ他社にとっても価値があったのです。新事業のアイデアは、自社の「困りごとの解決策」に潜んでいることが多いです。
IoTサービスのビジネスモデル設計
G社は新事業進出補助金の申請にあたり、自社開発のIoT監視システムを「SaaS型サービス」として他社に提供するビジネスモデルを設計しました。
サービスラインナップと料金体系
| プラン | 内容 | 月額料金 | ターゲット |
| ライトプラン | センサー5台まで、基本監視、メールアラート | 5万円/月 | 小規模町工場(5〜15名) |
| スタンダードプラン | センサー20台まで、AI異常検知、ダッシュボード | 15万円/月 | 中規模製造業(15〜50名) |
| プレミアムプラン | センサー無制限、予防保全AI、月次レポート、訪問サポート | 30万円/月 | 中堅製造業(50名以上) |
最大の差別化ポイントは「製造業が作った、製造業のためのIoTサービス」であること。IT企業が提供する汎用IoTプラットフォームとは異なり、金属加工設備に特化したセンサー設定やアラート閾値が最初から最適化されている点が強みです。
収益モデルの転換:フロー型からストック型へ
| 項目 | 既存事業(受託加工) | 新事業(IoTサービス) |
| 収益モデル | 受注単価×数量(月次変動大) | 月額利用料×契約数(安定収益) |
| 粗利率 | 25% | 75%(ソフトウェアベース) |
| 顧客あたり年間売上 | 500万円(変動あり) | 180万円(安定) |
| 解約リスク | 毎年の価格交渉で受注喪失リスク | 月次契約だが設備に組み込まれているため解約率は低い |
SaaS型の魅力
G社が目指したのは「寝ている間にもお金が入ってくる」モデルです。受託加工は「作らなければ売上ゼロ」ですが、SaaS型は一度システムを導入すれば毎月安定した売上が発生します。50社に導入すれば月額750万円(年間9,000万円)のストック収益となり、受託加工の受注変動に左右されない経営基盤が築けます。
投資計画と補助金の活用内訳
G社は新事業進出補助金で以下の投資を行いました。
| 経費区分 | 内容 | 金額 |
| 機械装置費 | IoTセンサーモジュール量産設備 | 1,200万円 |
| 機械装置費 | クラウドサーバー・ネットワーク機器 | 600万円 |
| システム構築費 | SaaSプラットフォーム開発(外注) | 1,500万円 |
| システム構築費 | AI異常検知エンジン開発 | 800万円 |
| 広告宣伝費 | Webサイト、展示会出展、リーフレット | 400万円 |
| 研修費 | エンジニア研修、セールス研修 | 300万円 |
| 投資総額 | 4,800万円 |
| 補助金額(補助率1/2) | 2,400万円 |
システム開発費の注意点
SaaSプラットフォームの開発費は「システム構築費」として補助対象になりますが、開発の見積根拠を明確にする必要があります。G社は開発会社3社から相見積もりを取得し、工数の内訳(要件定義、設計、開発、テスト)を計画書に記載しました。「ITに詳しくないからお任せ」という姿勢では採択は困難です。
事業化のプロセス|開発から顧客獲得まで
G社がIoTサービスを事業化するまでのプロセスを時系列で紹介します。
フェーズ1: プラットフォーム開発(6ヶ月間)
自社で開発したプロトタイプをベースに、クラウド型SaaSプラットフォームを開発しました。開発は外部のIT企業と共同で進め、G社のエンジニアが「現場の要件」を詳細に伝える体制を構築しました。
- 要件定義: G社エンジニア+開発会社PMで2ヶ月間
- プラットフォーム開発: 3ヶ月間(アジャイル開発、2週間スプリント)
- テスト: 1ヶ月間(自社工場+協力工場3社でβテスト)
フェーズ2: パイロット導入(3ヶ月間)
βテストに参加した3社を含む8社にパイロット導入を実施。無料期間(3ヶ月)を設けて、実際の運用データを蓄積しました。
| パイロット企業 | 業種 | センサー数 | 導入効果 |
| A社 | 板金加工 | 8台 | 故障予兆検知で月30万円のロス削減 |
| B社 | 切削加工 | 12台 | 稼働率10ポイント向上 |
| C社 | 樹脂成形 | 15台 | 不良率1.2%→0.4%に改善 |
パイロット導入の結果、8社中7社が有料契約に移行。残り1社も3ヶ月後に契約しました。
フェーズ3: 本格展開と顧客獲得(12ヶ月間〜)
パイロット導入の成功を受け、本格的な営業活動を開始しました。顧客獲得チャネルは以下の3つです。
| チャネル | 内容 | 獲得件数(初年度) |
| 展示会出展 | 日本ものづくりワールド、スマート工場EXPO等 | 15社 |
| 既存取引先紹介 | G社の既存取引先のネットワーク | 12社 |
| Webマーケティング | 導入事例記事、ウェビナー、リスティング広告 | 8社 |
展示会出展が最大の顧客獲得チャネル
製造業向けIoTサービスの販売では、展示会での実機デモが最も効果的でした。「IT企業のIoT」と「町工場のIoT」の違いを実機で体感してもらうことで、中小製造業の経営者の信頼を得られました。展示会のブースでは自社工場のリアルタイム稼働データをモニターに映し出し、「今まさに動いているデータ」を見せたことが商談につながりました。
事業化3年間の業績推移と成果
G社のIoTサービス事業の業績推移と、会社全体への影響を紹介します。
| 指標 | 1年目 | 2年目 | 3年目 |
| IoTサービス契約社数 | 35社 | 68社 | 105社 |
| IoTサービス売上 | 3,800万円 | 8,200万円 | 1.4億円 |
| IoTサービス営業利益率 | 15% | 32% | 42% |
| 受託加工売上 | 1.8億円 | 1.6億円 | 1.5億円 |
| 全社売上 | 2.18億円 | 2.42億円 | 2.9億円 |
| 全社営業利益率 | 8% | 14% | 20% |
| 従業員数 | 25名 | 30名 | 35名 |
3年目には、IoTサービス事業の売上が全社売上の48%を占めるまでに成長。受託加工事業の減少を補って余りある成長を達成しました。
最大の変化: 採用力の向上
IoTサービス事業を始めたことで、「町工場=きつい・汚い・危険」というイメージが「テクノロジー企業」に変わり、若手エンジニアの応募が急増しました。3年間で10名の若手(20〜30代)を採用でき、平均年齢は52歳から44歳に若返りました。社長は「補助金の最大の効果は設備投資ではなく、人材採用力の向上だった」と語っています。
町工場のIoTサービス化|事業計画書のポイント
G社のように町工場がIoTサービス事業で採択されるための、事業計画書の記載ポイントを解説します。
| 記載項目 | 審査員が見るポイント | G社の記載例 |
| 技術的優位性 | IT企業との差別化要因 | 金属加工設備に特化したセンサーチューニング、30年の現場経験に基づく異常閾値設定 |
| 市場規模 | ターゲット市場の大きさと成長性 | 国内中小製造業のIoT導入率15%(経産省調査)、市場規模約8,500億円(2025年予測) |
| 顧客獲得計画 | 現実的な顧客獲得の道筋 | 既存取引先50社への紹介営業→展示会→Web集客の3段階 |
| 開発体制 | 技術的な実現可能性 | 自社エンジニア2名+外部開発会社、プロトタイプ実証済み |
| 収益計画 | MRR/ARRの積み上げ根拠 | 月額平均12万円×契約社数(年間解約率10%想定) |
プロトタイプの有無が採択を左右する
G社が採択された最大の要因は、すでに自社工場で稼働中のプロトタイプがあったことです。「これから開発します」という計画よりも、「すでに動いている仕組みを他社に展開します」という計画のほうが、実現可能性の評価が格段に高くなります。可能であれば、申請前にプロトタイプやPoC(概念実証)を実施しておくことを強くおすすめします。
G社から学ぶ町工場DXの教訓
G社の事例から得られる、町工場がDXで新事業を立ち上げる際の教訓を整理します。
| 教訓 | 内容 |
| 1. 自社の課題解決から始める | 最初から「売る」ことを考えるのではなく、自社の課題を解決するツールを作る。それが他社にも価値があれば事業化する |
| 2. IT企業と組む、IT企業になるな | 町工場が強いのは「現場知」。ITの開発は専門家に任せ、自社は「何を解決するか」に集中する |
| 3. 小さく始めて大きく育てる | 最初はセンサー5台の監視から。成功事例を積み重ねてから機能を拡張する |
| 4. 既存顧客をパイロットにする | 既存の取引先に無料で試してもらい、実績とフィードバックを得る。信頼関係があるからこそ率直な意見が聞ける |
| 5. 「製造業が作った」を武器にする | IT企業のIoTとの最大の差別化は「現場を知っている」こと。展示会でも営業でも、この点を前面に出す |
よくある失敗パターン
町工場のDX新事業で失敗しやすいのは、「技術にこだわりすぎて顧客の声を聞かない」パターンです。G社が成功した理由の一つは、パイロット導入で8社の声を丁寧に拾い、「現場が本当に欲しい機能」を優先して開発したことです。技術者が「作りたいもの」ではなく、顧客が「使いたいもの」を作ることが鉄則です。