制度・仕組み
新事業進出補助金の大幅賃上げ特例で補助上限を最大2,000万円上乗せする方法
公開: 2026年3月15日
更新: 2026年3月15日
読了目安: 3分
大幅賃上げ特例とは:補助上限額を最大2,000万円上乗せできる制度
新事業進出補助金の「大幅賃上げ特例」は、一定の賃上げ計画を策定した場合に、通常の補助上限額に最大2,000万円を上乗せできる制度です。中小企業の賃上げを強力に促進するための政策ツールとして位置づけられています。
通常の補助上限額は従業員規模に応じて1,500万円〜9,000万円ですが、大幅賃上げ特例を活用すると以下のように拡大されます。
| 区分 | 通常上限 | 特例適用後の上限 | 上乗せ額 |
| 中小企業(20人以下) | 1,500万円 | 3,500万円 | +2,000万円 |
| 中小企業(21〜50人) | 3,000万円 | 5,000万円 | +2,000万円 |
| 中小企業(51〜100人) | 5,000万円 | 7,000万円 | +2,000万円 |
| 中小企業(101人以上) | 7,000万円 | 9,000万円 | +2,000万円 |
| 中堅企業 | 最大9,000万円 | 最大1億1,000万円 | +2,000万円 |
二重のメリット
大幅賃上げ特例は補助上限額の上乗せだけでなく、審査での「大幅賃上げ加点」も同時に得られます。補助金額の拡大と採択率の向上の両方を同時に実現できる、非常に強力な制度です。
大幅賃上げ特例の適用要件
大幅賃上げ特例の適用を受けるには、以下の2つの要件を両方満たす必要があります。通常の賃上げ要件(年率平均2%以上)よりも大幅に高いハードルが設定されています。
要件1:給与支給総額の年率平均6%以上向上
事業計画期間内に、全従業員への給与支給総額を年率平均6%以上向上させる計画を策定する必要があります。
| 現在の給与支給総額 | 1年後(+6%) | 2年後(+6%) | 3年後(+6%) |
| 3,000万円 | 3,180万円 | 3,371万円 | 3,573万円 |
| 5,000万円 | 5,300万円 | 5,618万円 | 5,955万円 |
| 1億円 | 1億600万円 | 1億1,236万円 | 1億1,910万円 |
3年間で約19%の増加となります。現在の給与支給総額が5,000万円の場合、3年後には約5,955万円まで引き上げる計画が必要です。
計算上の注意
給与支給総額には基本給・賞与・各種手当(通勤手当、時間外手当等)が含まれますが、退職金や福利厚生費は含まれません。また、役員報酬は含まれない場合があるため、公募要領で最新の定義を確認してください。
要件2:事業場内最低賃金+50円以上
事業場内の最低賃金を、地域別最低賃金より50円以上高く設定する必要があります。通常の最低賃金要件(+30円以上)よりも20円高い基準です。
| 都道府県 | 地域別最低賃金(2025年度) | 通常要件(+30円) | 特例要件(+50円) |
| 東京都 | 1,163円 | 1,193円以上 | 1,213円以上 |
| 大阪府 | 1,114円 | 1,144円以上 | 1,164円以上 |
| 愛知県 | 1,077円 | 1,107円以上 | 1,127円以上 |
| 福岡県 | 992円 | 1,022円以上 | 1,042円以上 |
パート・アルバイトを含む全従業員の時給が基準以上であることが条件です。月給制の従業員は「月給÷月間所定労働時間」で時給換算します。
大幅賃上げ特例を活用するメリット
大幅賃上げ特例には、補助上限額の上乗せ以外にも複数のメリットがあります。
| メリット | 内容 |
| 補助上限額の拡大 | 最大2,000万円の上乗せ。中小企業(20人以下)なら上限が1,500万円→3,500万円と2倍以上に |
| 審査での加点 | 大幅賃上げ加点(加点項目の中でも高い配点が期待される) |
| 従業員の定着率向上 | 大幅な賃上げは従業員のモチベーション向上と離職防止に寄与 |
| 採用競争力の強化 | 賃金水準の引き上げは新規採用時の競争力向上につながる |
| 企業イメージの向上 | 「賃上げに積極的な企業」としてのブランディング効果 |
大幅賃上げ特例のリスクと注意点
大幅賃上げ特例はメリットが大きい一方で、計画未達時のリスクも存在します。このリスクを正しく理解した上で、特例の活用を判断してください。
計画未達時の補助金返還リスク
事後報告期間(3〜5年間)に賃上げ計画が未達となった場合、上乗せ分(最大2,000万円)の一部または全額の返還を求められる可能性があります。
返還リスクの具体例
補助金3,500万円(通常上限1,500万円+特例上乗せ2,000万円)を受給した企業が、3年後に給与支給総額の年率平均4%しか達成できなかった場合、上乗せ分2,000万円の返還を求められる可能性があります。返還には遡及利息がかかることもあるため、無理のない計画を立てることが極めて重要です。
人件費増加による資金繰りへの影響
年率6%の賃上げを継続すると、3年間で約19%の人件費増加となります。この増加分は毎月のキャッシュアウトとして確実に発生するため、事業の収益計画と整合する必要があります。
- 新事業の売上見通しが人件費増加を十分にカバーできるか
- 既存事業の収益で人件費増加分を吸収できるか
- 赤字が続いた場合でも賃上げを継続できる財務基盤があるか
特に小規模事業者は、人件費増加の割合が経営全体に大きな影響を与えるため、慎重な判断が必要です。
特例活用のシミュレーション:いくら得するのか
大幅賃上げ特例を活用した場合のメリットを、具体的な数値でシミュレーションします。
ケース1:従業員10人の製造業(現在の給与支給総額3,000万円)
| 項目 | 特例なし | 特例あり | 差額 |
| 補助上限額 | 1,500万円 | 3,500万円 | +2,000万円 |
| 総事業費(上限フル活用時) | 3,000万円 | 7,000万円 | +4,000万円 |
| 自己負担額 | 1,500万円 | 3,500万円 | +2,000万円 |
| 3年間の賃上げ増加分 | 約360万円(2%×3年) | 約1,080万円(6%×3年) | +720万円 |
| 補助金増加分 − 賃上げ追加コスト | - | - | +1,280万円 |
この例では、3年間で賃上げに追加で720万円多くかかりますが、補助金が2,000万円増加するため、差し引き1,280万円のメリットがあります。
ケース2:従業員50人のサービス業(現在の給与支給総額1億5,000万円)
| 項目 | 特例なし | 特例あり | 差額 |
| 補助上限額 | 3,000万円 | 5,000万円 | +2,000万円 |
| 3年間の賃上げ増加分 | 約1,800万円(2%×3年) | 約5,400万円(6%×3年) | +3,600万円 |
| 補助金増加分 − 賃上げ追加コスト | - | - | -1,600万円 |
注意
従業員数が多く給与支給総額が大きい企業では、6%賃上げの追加コストが補助金の上乗せ分を上回ることがあります。この場合、特例を活用するかどうかは慎重に判断してください。賃上げ自体は企業にとって良い投資ですが、補助金の上乗せだけを目的にするのは危険です。
大幅賃上げ特例の申請方法と必要書類
大幅賃上げ特例を申請する際の具体的な手順と必要書類を解説します。
申請手順
- ステップ1:現在の給与支給総額と事業場内最低賃金を把握する
- ステップ2:年率6%以上の賃上げ計画を策定する(3〜5年分の数値計画)
- ステップ3:事業場内最低賃金が地域別最低賃金+50円以上であることを確認する
- ステップ4:賃上げ計画書を作成し、事業計画書に反映する
- ステップ5:申請時に「大幅賃上げ特例」を選択して申請する
必要書類
| 書類 | 内容 | 注意事項 |
| 賃金台帳 | 直近の全従業員の賃金支払い実績 | パート・アルバイトも含む |
| 賃上げ計画書 | 年度別の給与支給総額の計画数値 | 根拠(売上計画等)を併記 |
| 就業規則 | 現在の賃金規程の確認 | 最低賃金の適合を証明 |
| 決算書 | 直近2期分の損益計算書 | 人件費の推移を確認 |
アドバイス
賃上げ計画は単に数値を書くだけでなく、「新事業の売上増加により原資を確保する」「生産性向上により一人当たりの付加価値を高める」など、賃上げの財源計画も併せて記載すると審査での評価が高くなります。
特例を活用すべき企業・そうでない企業の判断基準
大幅賃上げ特例は万能ではありません。以下の基準で自社が活用すべきかどうかを判断してください。
| 活用すべき企業 | 慎重に検討すべき企業 |
| 新事業の収益見通しが明確 | 新事業の収益が不透明 |
| 従業員数が少なく賃上げコストが限定的 | 従業員数が多く賃上げコストが大きい |
| 既存事業でも安定した収益がある | 既存事業の収益が減少傾向 |
| 人材確保が経営課題で賃上げが必要 | 現在の賃金水準で人材が確保できている |
| 財務基盤が安定している | 借入金が多く財務余力が少ない |
迷ったら
判断に迷う場合は、認定支援機関や税理士に相談してシミュレーションを行いましょう。3〜5年間の損益計画と資金繰り計画を作成し、賃上げ後も経営が安定して継続できることを確認することが重要です。