この記事の結論
新事業進出補助金の申請要件には、賃上げに関する条件が含まれています。この要件は「補助金を受ける代わりに従業員の待遇を改善する」という政策目的に基づいており、申請時の計画段階と事業完了後の実績確認の両方で評価されます。
新事業進出補助金の賃上げ要件とは?基本ルールの全体像
新事業進出補助金の申請要件には、賃上げに関する条件が含まれています。この要件は「補助金を受ける代わりに従業員の待遇を改善する」という政策目的に基づいており、申請時の計画段階と事業完了後の実績確認の両方で評価されます。
賃上げ要件を正しく理解し、無理のない計画を立てることが採択と事後のペナルティ回避の両方に重要です。
| 要件 | 基本要件 | 加点要件(大幅賃上げ) |
|---|---|---|
| 給与支給総額の増加 | 年率平均2%以上の増加 | 年率平均4%以上で加点 |
| 事業場内最低賃金 | 地域別最低賃金+30円以上 | 地域別最低賃金+50円以上で加点 |
| 計画期間 | 事業計画期間(3〜5年) | 同左 |
賃上げ要件は「必須」
賃上げ要件は任意の加点項目ではなく、申請の必須要件です。この要件を満たさない計画では、申請自体が受理されません。補助率は中小企業1/2、中堅企業1/3で、補助上限は9,000万円、下限は750万円です。
給与支給総額の定義と計算方法
「給与支給総額」は賃上げ要件の中核となる数値です。正確に計算する方法を解説します。
給与支給総額に含まれるもの・含まれないもの
| 含まれるもの | 含まれないもの |
|---|---|
| 基本給 | 退職金 |
| 残業手当・時間外手当 | 法定福利費(社会保険料の事業主負担分) |
| 通勤手当 | 福利厚生費(社宅費、社員旅行費等) |
| 住宅手当・家族手当 | 役員報酬(取締役・監査役) |
| 賞与 | 派遣社員への支払い(派遣料) |
| パート・アルバイトの給与 | 業務委託費 |
役員報酬の取り扱い
役員報酬は給与支給総額に含まれません。したがって、役員報酬を増やしても賃上げ要件の達成には寄与しません。あくまで「従業員」の給与が対象です。ただし、従業員兼務役員の従業員部分の給与は含まれる場合があります。公募要領で最新の定義を確認してください。
給与支給総額の計算例
| 科目 | 基準年 | 備考 |
|---|---|---|
| 正社員の基本給合計 | 5,400万円 | 30名分 |
| 残業手当合計 | 600万円 | |
| 各種手当合計 | 360万円 | 通勤・住宅・家族手当 |
| 賞与合計 | 900万円 | 夏・冬合計 |
| パート・アルバイト給与合計 | 540万円 | 10名分 |
| 給与支給総額 | 7,800万円 |
この例では基準年の給与支給総額は7,800万円です。年率2%の増加を達成するには、1年目に7,956万円(+156万円)以上にする必要があります。
賃上げ要件達成のシミュレーション(3パターン)
基準年の給与支給総額7,800万円、従業員40名(正社員30名+パート10名)の企業を例に、賃上げ要件を達成するための3パターンのシミュレーションを行います。
パターン1: ベースアップ中心型(年率2%達成)
既存従業員のベースアップ(基本給の引上げ)で要件を達成するパターンです。
| 年度 | 正社員基本給 | その他 | 給与支給総額 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| 基準年 | 5,400万円 | 2,400万円 | 7,800万円 | - |
| 1年目 | 5,508万円 | 2,448万円 | 7,956万円 | +2.0% |
| 2年目 | 5,618万円 | 2,497万円 | 8,115万円 | +2.0% |
| 3年目 | 5,730万円 | 2,547万円 | 8,277万円 | +2.0% |
正社員1人あたりのベースアップ額: 5,400万円×2%÷30名 = 年間約3.6万円(月額約3,000円)のベースアップで達成可能です。
パターン2: 新規採用型(年率2%超過達成)
新事業に伴う新規採用で人件費を増加させ、賃上げ要件を達成するパターンです。
| 年度 | 既存社員 | 新規採用分 | 給与支給総額 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| 基準年 | 7,800万円 | - | 7,800万円 | - |
| 1年目 | 7,956万円 | 400万円(1名採用) | 8,356万円 | +7.1% |
| 2年目 | 8,115万円 | 820万円(2名分) | 8,935万円 | +6.9% |
| 3年目 | 8,277万円 | 1,260万円(3名分) | 9,537万円 | +6.7% |
新規採用のメリット
新規採用は給与支給総額の増加だけでなく、付加価値額の増加(人件費増加分が付加価値額にプラス)にも寄与します。新事業に必要な人材の採用であれば、事業計画書の「実施体制」セクションの充実にもつながり、一石三鳥の効果があります。
パターン3: 賞与増額型(年率4%加点狙い)
大幅賃上げ加点(年率4%以上)を狙う場合、ベースアップに加えて賞与の増額も有効です。
| 年度 | 基本給(+2%) | 賞与(増額分) | 給与支給総額 | 増加率 |
|---|---|---|---|---|
| 基準年 | 5,400万円 | 900万円 | 7,800万円 | - |
| 1年目 | 5,508万円 | 1,050万円(+150万) | 8,118万円 | +4.1% |
| 2年目 | 5,618万円 | 1,200万円(+300万) | 8,458万円 | +4.2% |
| 3年目 | 5,730万円 | 1,370万円(+470万) | 8,830万円 | +4.4% |
賞与増額の注意点
賞与は業績連動とする企業が多いため、売上が計画を下回ると賞与の減額→賃上げ要件未達となるリスクがあります。賞与だけに頼るのではなく、ベースアップとの組み合わせで要件を達成する計画が安全です。